「料理の仕事が好きやから」

  

もう随分前になるが、義母がまだ元気だった頃、里帰りして帰る時に何度か、ここ「わた庄」の鰻を持たせてくれた。ここの鰻を食べてからは、スーパーの鰻は食べられなくなった。それまでそれ程好きではなかった鰻が以降、好物になった。

  

昨日、姪の結婚披露の宴が大きく新しくしたばかりの、この「わた庄」で行われた。

今、時代は社会的にも経済的にも混迷し、日本は衰退期に入ったと言われている。そんな時に巨額の資金を投入し、店を新しく大きくしてオープンする店の料理はどんなものか、経営者はどんな人物なのか、興味津々であった。

 

義兄の話では、ここの主人は料理の仕事が根っから好きである。大きな店を作り美味しい料理を出すのが、昔からの夢だったそうである。経営者である店の主人と、今日の宴を囲む一人である義兄は昔からの友人関係にあったのである。力と余裕があるとは言え、リスクを背負い困難な時代に立ち向かう七十男は感動ものである。

  

この快挙には、苦悩する多くの事業者や起業する若き事業者に勇気と元気を喚起する大きな一石を投じる事になるのではないだろうか。

 

次々に出される和食料理の数々は見事であった。その味には隙のない優しさがある。隅々にまで気持ちが行き届いている。そして食べ残すことを許さない気迫、まさに料理人の魂、店の主人の夢が込められていると感じた。

 

私は最近こういう席では飲むのが主になり、あまり料理は多くは食べない方であったが、今日は不思議に食べる方に惹き付けられてしまった。久しぶりの感覚であった。温かい気持ちになるのを感じた。

 

帰り際、主人に義兄が「ご馳走様でした」と言ったところ、すぐに「そんなこと言わんといて、お金をいただいているのやから、こちらがお礼を言わねばならない」との姿勢にその人柄が滲んでいる。 又私が「以前からこちらの鰻が好きで、時々いただいている」と言えば、「鰻のタレはずっと昔からのを受け継いでいます」とのこと、至る所にまで味へのこだわりを感じさせられた。

 

この主人は大きな仕事をしたり、立派な店を持った人にありがちな尊大さや、驕りは微塵も感じさせない自然で誠実で謙虚な対応をされる方であった。

このあたりのことと「料理の仕事が好きである」ということが、年齢や時代の逆風をも超越し、夢を実現してきた所以なのであろう。その心は、料理を通して多くの人の気持ちを温かくし、店をさらに推し進めていく大きな原動力になることは間違いないと感じられた。(2010年11月22日 滋賀県高島市高島 わた庄続き・・)(indexへ)